3月ブックレビュー

このほかにも色々読んではいたんですが。カーヴァーの短編をじっくり読み直してみたり、ようやく経営戦略・ビジネスモデル全史を読んだり(面白かった)、久しぶりに大江健三郎(『個人的な体験』)を読んだり。
まあしばらくは気が向いたやつだけを書く感じでいこうと思います。
 
※『なぜ心を読みすぎるのか』のために何日か保留していたんだが、やっぱりどうもどこに焦点を当てたらいいかわからず、諦めた(つまらないという意味ではないです)。一応最後までは読んだんですが。気になる人は直接聞いてください。

「資本」論―取引する身体/取引される身体 (ちくま新書)

「資本」論―取引する身体/取引される身体 (ちくま新書)

 
我輩は資本論あんちょこ本マイスターである。原典はまだ読んでいない。これは資本論の解説本かというと違うのだけど。
稲葉振一郎という人には地味に注目している。
文体にはちょっとクセがあるけど、個人的な偏見とか、レッテル貼りみたいもの(「ヘタレ中流インテリ」とか)を交えてくれるので、けっこう笑える。素人にとってはそういうソフトな知識以前のなにかが理解とか興味の足掛かりにもなったりする。『経済学の教養』も面白かった。
中身については語る自信がないので、ガワの話でお茶を濁しておきます。
 
 

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映画だけど、個人的に久しぶりのヒットだったので入れちゃう。
オーディションで選ばれた若手の劇団員たちが、上演を数カ月後に控えた芝居の稽古をするのだが、直前になってオトナの都合で上演中止が決定する。やり場のない気持ちを爆発させる劇団員たち…。
ありがちなストーリーではあるんだけど、演劇モノとして74分ワンカットという演出が抜群に効いている。74分間緊張が続くわけで、観ている側の感覚としては映画よりも舞台作品を観ているのに近い。劇中劇もあるのでけっこうわけがわからなくなる。
軽くネタバレになってしまうけど(それによって本作の面白さが損なわれることはない)、ラストシーンはカーテンコールで舞台上に勢ぞろいした俳優たちの姿で終わる。つまり、スクリーンを通じて舞台を観るという不思議な構図のカットになるわけだが、超長回しの大役を終えたカメラマンの腕がわずかに震えていることがわかる。その瞬間に、この映画の虚構性が頂点に達する。目の前の映画館のスクリーンが、下北沢・本多劇場の舞台に変わったかのように錯覚する。スゴイ。エンドロールに入ると同時に「お疲れ様でーす!」の声でスクリーンの中の役者も観客もホッとする。明転後の心地よい疲れは完全に舞台を観終わった後のそれで、つい拍手しそうになってしまった(実際にしているお客さんもいた)。
エモ一直線なMOROHAの音楽も、この映画の劇伴としてはぴったり。ちょっと日常では恥ずかしくてあんま聴けないけどね。MOROHAの二人は実際に劇中に登場していて、劇団員たちが稽古している真横で暑苦しく(失礼)歌ったりしている。劇団員たちにはその姿は見えていないし、歌声も聴こえていないという設定なんだけど、ふとした瞬間にMOROHAのいる方向をじっと見つめる。その演出もすごくよかった。
皆さんぜひ観てください。ユーロスペースではまだやってみるみたいだし、全国まわってほしいですね。
正直観る前はいかにも青臭い設定と演劇的なタイトルで入り込めるかかなり不安だったけど、見事にやられました。2018年暫定ベスト(といっても今年そんなに観てないんだが)。DVD出たら買っちゃうかもな…。
 
 
美代子阿佐ケ谷気分

美代子阿佐ケ谷気分

 
ガロです。すごくいいですねえ。田舎を出てきて東京で漫画書いたりフォークソング歌ったり酒飲んだりして過ごしている。やってきたはずの道がいつの間にか閉ざされている。退屈な臭気。どぶ川の愛。おお、美代子の目よ。
(ところである友人が雰囲気も含めて美代子にそっくりなのでぜひ本人に読んでもらいたい。)
 

 

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか

 

 『なぜ心を読みすぎるのか』と並んでこれも社会心理学だ。別に今月そういうテーマで本を読んでいたわけではない。

どちらかというとビジネス書界隈で評価の高い著作だと思う。原書は1984年出版らしいので、このジャンルでは古典といっていいのかな。2014年に第三版が出て、だいぶ翻訳が読みやすくなったらしい。でも3000円出して買った割には、そしてその500ページ近い分厚さの割には、新しく得るものはそれほど多くなかった。(大学時代にけっこう心理学をかじったので…)
人はいかにして営業マンや広告代理店や宗教家やその他資本主義のハンターたちに操られ、しばしば非合理的な意思決定をしてしまうのか。
欧米ビジネス書の翻訳にありがちな、嘘だかホントだかわからんようなケースの羅列が飽きる。「ミズーリ州の車両部品工場で働くジェーンはある日、同僚の奇妙な行動に気がついた」…って、ジェーンて誰やねん。こういうのって典型的な確証バイアスじゃないか。
それにそれぞれの「武器」がけっこう矛盾したりしていて、もう少し深堀りする余地があると思うのだが、そうするとどんどんアカデミックな方向に行っちゃうんだろうな。
まあ何回か目を通すと、営業マンの古典的なテクニックには多少引っかかりづらくなるかもしれない。しかしわかってても引っかかるのが人情というものだ。
逆の視点から見れば、これらの多くは人間の生存本能から来ているものらしいので、
そういう本能と経済合理性のギャップを見つければ、優秀な営業マンになれる(かも)、ということである。
同じような内容をもっとコンパクトにまとめた新書もたくさん出てるはず。個人的にはそっちを読めば十分だと思う。