サマセット・モーム
「短編小説の最高峰」という触れ込みに誘われて読んだ『雨』(とその他二篇)がけっこうおもしろく、読まねばと思ってずっとウィッシュリストで放置していた『月と六ペンス』も続けて読んだらこれもまた悪くなかったので、短編集『ジゴロとジゴレット』もあっという間に読んでしまった。
というわけで11月は自分の中でひっそりとプチ・サマセットモームブームであった。
モームは通俗作家という批判もけっこうあって、まあ確かにこれだけエンターテイニングで読みやすければそういわれるのも無理はないという気がする。
通底するのは人間の多面性というようなところか。『雨』にはそれが最もドラマチックな形で結実している。
短編における人物の描写の仕方は、ちょっと「あるある(いるいる)ネタ」っぽいところもあって、確かに他の古典作家と比べたら深みに欠けるという印象もなくはないが、それがむしろ自己同一性という概念の危うさを表現するのに一役買っている。それはそれでリアルというか、なんだかんだ薄っぺらくて表面的で、「あるあるネタ」に収まってしまう人間の哀しみみたいなものがある。
そういう観察の結果としてのシニカルさ、「まあしょせん人間」みたいのがモームにはある。だから読後感としてはドキっとさせられたり、チクリとやられるようなものも多いけど、短編『サナトリウム』みたいに油断させておいてホロリとさせるようなのもあって、なんだ、本当は人間好きなんじゃん、とちょっと小突いてやりたくなったりする。
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