2018年1月読んだ本

2017年に読んで面白かった本についてアップしようと思っているうちにもう1月終わりかけてるんでこっちを。

年始のバイトやら引っ越し手続きやらなんやらで忙しくしていたので全然本が読めなかった…。ので、とりあえず2冊だけ(しかも片方は漫画)。思いついたら追記します。

 

町田康『告白』

友人にこれは読んでおいてほしいと言われたので借りて読みました。町田康は『くっすん大黒』と『ゴランノスポン』の短編くらいしか読んだことなかったので比較的軽い印象しかなかったけど、なるほどこれは重かった。実際に明治26年におきた「河内十人斬り」という事件を元に、大阪・赤坂水分村の博打打ち、城戸熊太郎が舎弟の谷弥五郎とともに大量殺人を犯すまでの経緯を描く。「河内十人斬り」は当時ビッグニュースになって、フィクションのネタにされたり、なんと河内音頭の演目になったりしている。800ページを超える大作だけど、全編軽快な河内弁で書かれていて、調子よく読める。三人称で書かれていながら、時々「あかんやつである」とか謎の神視点が入ったり、現代の言葉が出てきたりするのは町田康っぽい。そんな感じで最後までギャグっぽい調子で行くんだが、それでもテーマはドカンと重い。

城戸熊太郎はただの百姓の出のくせに、なんの因果か自分の思弁癖に気がつく。しかし言葉は上手くないので、考えていることが外に出せない。その、自分の思考と表出する言葉のギャップは、そのまま熊太郎の内面と外界のギャップになり、最後の最後、自ら死を遂げるまで埋まることはない(この最後の瞬間の熊太郎の一言がすごい)。頭の中では思弁の渦がぐーるぐるしてんのに、外からは「阿呆な熊太郎がまたなんか酔って阿呆なことしとるわ」としか思われない。辛いことよ。

百姓仕事もせず、博打ばっかしている熊太郎はどっからどうみても「あかんやつ」で、十人も人を殺すとんでもないやつなのだが、では彼の何が「あかんかった」のかは、正直言って、よくわからない。すげえ平たく言えば、「考えすぎよ、熊ちゃん」ってことになる。たぶん村の人々に少しでも熊太郎を理解しようとする気持ちがあれば、そう言っただろう。でも「考えすぎだよ」と言われて、はいそうですか考えるのをやめますというやつがどこにいるか。

こういったテーマで書かれた物語はいくつもあったように思うけど、これだけ物凄い勢いで破滅へ突き進んでいきながら同時に上方のユーモアを一瞬も失わないのが町田康の真骨頂なんだろうと思う。自分で書いといてなんですが、テーマ云々よりは、個々のしょうもないエピソードが何よりも面白い作品なので、ぜひ一度読んでみてください。熊太郎に詩の心か、信頼できる友人か、あるいは村に図書館でもあれば救われたのかな、と考えると心が締めつけられる。

 

ヤマシタトモコ『HER』

いきなり漫画です。ヤマシタトモってBLで有名らしい。そっちは全然詳しくないので知らなかった。『HER』は10代〜30代までの6人の女性に一人ずつフォーカスした短編集。それぞれの話はゆるく絡み合っていて、一話でモブキャラだった女性が次のエピソードの主人公だったり。だいたいどの女性もいわゆる「こじらせ」で、年齢に幅があり地味系から派手系までいるのでそのこじらせ方はそれぞれ違うのだが、とにかくその心理の描かれ方めちゃくちゃリアルじゃないですか?(質問形なのは男の俺が言ってもしょうがないからです)。ここまでリアルに描かれてると一種の残酷さを感じるほどで、マジで女って同性に容赦ねえな、とか思う。でも愛がある。絶対。

俺は「好きな異性のタイプは?」とかしょうもない質問されるとイチローなんでストライクゾーンめちゃくちゃ広いっす、ボール球でも打ちにいきます、とかテキトーなこと言ってるんだけど、それは嘘ではなく、というのもマジで俺は女性に対してはエロスってよりアガペーじゃねえかって思うくらい心が広いからでそれは自分で言うくらい。男の9割にはくたばれって思ってる一方で、女性は何してもオッケー、くらいのとこある。女性は悩みながら生きてるだけで偉いし美しい。ずるい。最近は弱者男性なんつって非モテやら男らしさ批判みたいのがよく取り沙汰されているけど、個人的には(それはめちゃくちゃ大事なことだと思いつつも)あまり興味がもてない。もうこれは生理的なもんでしょうね。

さて、どんな女の子が出てくるかというと。ケース1、美容院で「どうしますか?」「モテたいです」とか言いながら、なんかいまいちモテ系メイク、とか嫌で、てゆーかみんな靴ダサくない?あたしの方が百倍ちゃんとしたヒール履いてんのになんでみんなそれで彼氏つくったりしてるわけ?どいつもこいつもダサい、男はわかってない、みたいな。わかる。男は男で「〇〇さんってなんかいつもこわい靴履いてますよね」とか言いやがる。この「こわい」ってのはなんだろうか?おしゃれすぎる女性はこわい、みたいなやつ。バカじゃねーの。私はちゃんと自分に似合う素敵な靴を選んで履いてるのに、なんでくだらん「モテ系コーデ」みたいな女に騙されるわけ?うんうん。

一方でザ・モテ系みたいな女子が主人公のエピソード。私は一人じゃ何もできない。誰かと一緒じゃないと生きられないから、「モテたい」んじゃないの、「モテないといけない」の。それなのに、なんか努力してきましたみたいな顔して自立してる風の女。「そういうモテそうな顔羨ましい」とか言っていながら、心の中では見下してるんでしょう、あたしのこと。うわ、スッゲー。ここまで描いてる漫画、他にもあったら教えてください。彼氏が途切れないタイプのゆるふわ系(ちょくちょくいるよね)も、こういう地獄を生きているんだろうか。

さて男性諸君、女性はこういう不条理と闘いながら日々を生き抜いているんですよ。見習いなさい…ということではないんだけど。なんだろうか、こういうのって、すごく可愛くないですか?